Grete Pedersen/
Det Norske Solistkor
Nowegian Radio Orchestra
BIS/SACD-1970(hybrid SACD)
グレーテ・ペデーシェン率いるノルウェー・ソリスト合唱団の
BISからの3枚目(もっとあるかもしれませんが)のアルバムがリリースされました。
2009年録音の
「White Night」、
2010年録音の
「ブラームス&シューベルト」に続いては、
2011年から
2012年にかけて録音された
20世紀の作品集です。
ここで取り上げられた作曲家は4人、全く聞いたことのないノルウェーのファテイン・ヴァーレン(
1887-1952)という人と、彼と同じ世代の、こちらは有名なアントン・ウェーベルンとアルバン・ベルク、そして、さらに一世代下のオリヴィエ・メシアンです。
アルバムは、普通の音楽辞典には載っていない、主に声楽曲や合唱曲を作っていたヴァーレンさんの「アヴェ・マリア」から始まります。これは合唱曲ではなくオーケストラとソプラノ・ソロのための作品です。リヒャルト・シュトラウスをもっと熟れさせて、ほとんど「無調」の領域まで足を踏み込んでいる曲調からは、このテキストの敬虔な感じはあまり聴こえては来ませんが、とても伸びのある声のソリスト(ベリート・ノルバッケン・ソルセト)の力によって、そんなうじうじしたメロディからもふんだんに魅力が感じられます。
そして、次の曲がメシアンの「5つのルシャン」です。ソプラノ・ソロで始まるオープニングで、その前の曲のソリストの声がそのまま聴こえてきたのには、ちょっと驚いてしまいました。彼女は、この合唱団のメンバーだったのですね。ソルセトは、
ソリストとしても存在感を持っていたのですが、合唱の中でもしっかり核となる声となって、全体のサウンドをとてもタイトなものにしてくれています。調べてみると、前回のアルバムには、彼女は参加していませんでした。
2003年からのメンバーなのだそうですが、ソリストとしても忙しいのでしょう。それにしても、彼女が加わったことで、今まで聴いてきたこの団のサウンドがさらにグレード・アップしたような感じです。
そんな、とても充実したサウンドで聴くメシアンは、とても素晴らしいものでした。なによりも、情緒を廃して毅然とした態度で音楽に向かい合っている姿勢が素敵です。この曲になよなよした甘ったるさは要りません。
続くウェーベルンも、そういう姿勢で歌われると見事にその存在意義が見えてきます。
Op.19の「2つの歌」では小アンサンブル(オスロ・シンフォニエッタのメンバー)との共演ですが、ちりばめられた楽器との絡みなどは絶品です。
そのあと、さっきのヴァーレンの、ノルウェー語による無伴奏のモテットが2曲演奏されます。1曲目はもろ無調、2曲目は、クラリネットが1本合唱の中に入ってカノンを展開するという、面白い曲です。ただ、「アヴェ・マリア」同様、この合唱団の力をもってしてもあまり魅力を感じさせることはできません。
ベルクの曲は、歌曲の「
Die Nachtigall」を、あのクリトゥス・ゴットヴァルトが編曲したバージョンです。例によって
16声部の入り組んだ編成で、伴奏までア・カペラの合唱に置き換えた難易度の高い編曲ですが、この合唱団は完璧にハーモニーもハイ・ノートもクリアしています。ここでのゴットヴァルトは、先ほどの「5つのルシャン」のように、多くの「現代作曲家」に合唱曲を委嘱した人物としての意味合いでの登場となるのだそうです。
そのあと、もう1曲ヴァーレンの曲が演奏されています。今度はオーケストラと合唱の「詩編
121」、これが驚いたことに今までの曲とは全然スタイルの異なる、ほとんどブラームスのエピゴーネンといった感じになっています。実は、これがこの中では最も初期の作品、こんなところでも、「現代作曲家」の作風の変化が味わえますよ。
最後のメシアン「
O sacrum convivium」でも、この合唱団のスキルは全開です。ホモフォニックなこの曲の中で、房状コードが醸し出す色彩が時間とともに変わっていくさまは、まさにアルバムタイトルの「
Refractions(光の屈折)」そのものです。
SACD Artwork © BIS Records AB